岐阜地方裁判所 昭和39年(ワ)484号 判決 1965年5月10日
東京都台東区上野四丁目八番四号
原告株式会社
赤札堂
右代表者
小泉一兵衛
右代理人
石川秀敏
岐阜市柳ケ瀬通三丁目二五番地
被告
株式会社大アカフダ堂
右代表者
山田千枝子
右代理人
江口三五
同
由良久
主文
一、被告は別紙第一目録記載の商品について、「赤札堂」及び「大アカフダ堂」という標章を商標として使用してはならない。
二、被告は本裁判確定後二週間以内に別紙第二目録記載の謝罪広告を、その広告の大きさ二段四分の一とし、表題は二号活字、大アカフダ堂並びに赤札堂殿なる文字は四号活字その他はすべて五号活字を用いて、名古屋市内で発行する「中日新聞」、岐阜市内で発行する「岐阜日々新聞」及び東京都内で発行する「繊維小売新聞」の全国版の各新聞紙上に各一回掲載せよ。
三、原告のその余の請求を棄却する。
四、訴訟費用は全部被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、一、被告は別紙第一目録記載の商品につき(1)その商品又はその商品の包装に「赤札堂」又は「大アカフダ堂」なる標章を附する行為(2)その商品又はその商品の包装に「赤札堂」又は「大アカフダ堂」なる標章を附したものを譲渡し、引渡し、譲渡若くは引渡のために展示し、又は輸入する行為(3)その商品に関する広告、定価表、又は取引書類に「赤札堂」又は「大アカフダ堂」なる標章を附して展示し又は頒布する行為をしてはならない。二、被告は本裁判確定後二週間以内に別紙第二目録記載の謝罪広告文案中冒頭「弊社が昭和三九年六月一〇日以来」を「弊社が昭和三八年四月以来」と記載する外その余は右文案と同文の謝罪広告、但し右広告は半三段とし、表題は一号活字、大アカフダ堂並に赤札堂殿なる文字は三号活字その他はすべて四号活字とするを名古屋市内で発行する「中部日本新聞」岐阜市内で発行する「岐阜日々新聞」及び東京都内で発行する「日本繊維新聞」「繊維小売新聞」「繊研新聞」の全国版の各新聞紙上に各一回宛掲載せよ。
三、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、
一、原告は繊維製品等の販売等を目的とする会社で旧商標法施行規則第一五条所定の分類に従い左記のとおり商品を指定して登録を受けた「赤札堂」なる商標の商標権者であり、右指定は商標法施行法第三条により当然新法による商標権の指定商品としての効力を有する。
記
指定商品 登録番号 登録年月日
旧商標法施行規則第一五条第二八類(毛糸) 四四八、六六七号 昭和二九年七月二八日
同第三〇類(絹織物) 四二八、六六一号 昭和二八年七月二七日
同第三一類(木綿織物) 四二八、六六四号 同
同第三二類(毛織物) 四二八、六六二号 同
同第三三類(麻織物) 四二八、六六七号 同
同第三四類(第三〇類乃至第三三類に属せざる織物) 四二八、六六九号 同
同第三五類(他類に属せざる糸類の編物、組物、捻物、レース、ドロンウオーク、刺しゆう品及び各種の紐類) 四二二、八一二号 昭和二八年三月一九日
同第三六類(被服、手巾、釦紐及び装飾用ピン類) 四〇四、〇二八号 昭和二六年一〇月一三日
同第三七類(寝具及び他類に属せざる室内装置品) 四二七、四二二号 昭和二八年六月二五日
二、被告は繊維品の製造並に販売、洋品雑貨の販売等を目的とする会社で昭和三九年六月一〇日設立以来、その取扱商品即ち、(1)被服(洋服、セーター類、ワイシヤツ類、下着、和服、コート、ねまき類、その他の被服)(2)布製身回品(ハンカチ、手ぬぐい、タオル)(3)寝具類(敷布)又は右商品の包装及び右商品に関する広告、定価表、又は取引書類に「赤札堂」又はこれに類似する「大アカフダ堂」なる標章を附しもつて原告の商標権を侵容している。
三、よつて、原告は被告に対し、その商標権にもとずき、被告の使用している「赤札堂」及びこれに類似する「大アカフダ堂」なる標章の使用の禁止を求めるとともに、前記の如き謝罪広告をさせるべく本訴に及ぶ、
と述べ、被告の主張に対する反駁として、
一、原告の商標権が登録要件を欠き無効であるとの主張について、
現に商標が登録されている以上それに無効原因があつたらその商標登録を無効にすることについて審判を請求すべきであることは商標法第四六条に明定するところであり、審判を経ないで無効の主張は許されない。
又「赤札堂」は原告の名称をごく普通に表示しただけだから特別顕著性がなく登録要件を欠くというが現に登録されている著名な幾多の商標は孰れも会社の名称をごく普通に表示しただけのものであるがこれをもつて無効とは言い難く、而して原告主張の商標も何等登録要件を欠くものではない。
二、被告に商標権の侵害行為がないとの主張について、
被告は原告主張の品物に「大アカフダ堂」なる標章を商標として使用していないというが、右標章の使用とは必ずしも商品自体に標章を貼付しなくとも包装に標章を付したりこれを付したものを引き渡したり商品に関する広告又は取引書類に標章を付して展示し又は頒布する行為も亦標章の使用となることは当然でありこれが商標としての使用であることは明白である。又被告は原告の「赤札堂」と被告の「大アカフダ堂」とでは文字も書体も相違しているから商標権侵害にならないというが、文字、書体に多少の相違があつても称呼観念において類似すれば、類似商標となるし、その主要部分が同一ならばこれに「大」とか「新」などの文字を付け加えても類似商標たることを免れえないものである点からも被告の右主張は誤りである。
三、原告の商標権の効力は被告が自己の名称を普通に用いられる方法で表示する「大アカフダ堂」なる商標には及ばないとの主張について、商標法第二六条第一項第一号は正当な名称の使用に関する規定であつて、本件の如き被告の不当不正な名称の使用に関しては適用の余地なく、しかも本件の場合は不正競争の目的を以て使用されたものである。即ち被告は「赤札堂」なる商標が既に登録されていることおよび繊維製品を扱う「赤札堂」がラジオ、テレビ等の宣伝と相俟つて全国的に著名であることを十分に知悉しながら不正競争の目的に利用せんとしてこれと類似する「大アカフダ堂」たる商号を登記し、これを用いたものであるから、かかる不正の名称が保護されるいわれはなく而して、商標法第二六条第一項第一号を適用すべき余地は全くない。と述べ、
立証(省略)
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、
原告の請求原因第一項の事実は不知、同第二項の事実中被告会社が昭和三九年六月一〇日その主張の如き営業目的を有する会社として設立されたことは認めるがその余の事実は否認する。
と述べ、主張として、
一、仮に原告主張の商標が登録されているとしても、それは登録さるべきでない商標が誤つて登録されているに過ぎず無効である。即ち、原告主張の「赤札堂」は、原告の名称を普通に表示しただけであつて表示方法に何等特殊の技巧がなく、従つていわゆる特別顕著性がないから登録要件を欠き商標として登録しえないものである。
二、被告に原告主張の如き商標権侵害行為はない。
被告は原告主張の物品に「赤札堂」又は「大アカフダ堂」なる標章を商標として使用していない。即ち「大アカフダ堂」なる標章を用いていてもそれは単に被告の名称をごく普通に表示しているに過ぎず商標として使用しているものではないから商標権の侵害は問題とはならず、又然らずとするも原告の主張する「赤札堂」と被告の「大アカフダ堂」とは文字も書体も全く相違しており色彩の施し方も異り、而して、右「大アカフダ堂」なる標章が原告の商標と類似するものではなく何れにしても原告の商標権を侵害するものではないこと明白である。
三、仮に、原告の商標権が有効であり、被告が「赤札堂」又はこれに類似する「大アカフダ堂」なる商標を使用しているとしても、原告の右商標権の効力は被告が自己の名称を普通に用いられる方法で表示する右商標には及ばない。即ち、被告の右商標の使用が商標法第二六条第一項第一号に該当することは明白である。
よつて原告の本訴請求は失当として棄却さるべきである。
と述べ、
立証(省略)
理由
一、成立に争ない甲第一号証の一、第二号証の一乃至九によれば、原告は繊維製品等の販売等を目的とする会社で原告主張の各指定商品につきその主張の如く「赤札堂」なる商標の登録を受けた商標権者であることが認められ、これに反する証拠はない。
二、被告が繊維品の製造並に販売、洋品雑貨の販売等を目的とする会社で昭和三九年六月一〇日設立されたことは当事者間に争なく、証人(省略)の証言によればその取扱商品は被服(洋服、セーター類、ワイシヤツ類、下着、和服、コート、ねまき類、その他の被服)布製身回品(ハンカチ、手ぬぐい、タオル)寝具類(敷布)であることが認められ、これに反する証拠なく、又(証拠―省略)を綜合すれば被告が右取扱商品につき、その宣伝広告(ちらし)包装紙、定価票、買上票等に「赤札堂」又は「大アカフダ堂」なる標章を付して使用していることが認められ、(中略)他に右認定を左右するに足る証拠はない。
三、そこで被告の商標権侵害の有無につき案ずるに、
(一) 先ず、被告は原告主張の「赤札堂」なる商標は特別顕著性がないから登録要件を欠き無効であると主張するが、当該商標が現に登録されている以上その商標登録の無効を主張するにはまず商標法第四六条所定の審判請求をなすべきで、右審判を経ないで訴訟において直ちにその無効を主張することは許されないと解すべきであり、弁論の全趣旨によれば被告は右審判請求をしていないこと明らかであるから、この点において被告の右主張はそれ自体失当といわねばならない。
(二) 次に、被告は被告の「大アカフダ堂」なる標章は原告の「赤札堂」なる標章と文字も書体も相違し、又色彩の施し方も異るので類似性がないと主張するが右両標章の主要部分たる「アカフダ堂」と「赤札堂」は称呼観念において同一であり、右のごとく漢字を仮名にしているとか、或いはその附随部分に大の字を付加し「大アカフダ堂」としてもこれをもつて類似性がないとは言えない。又右両標章は何れも文字と色彩との結合によるものではあるが文字の称呼観念に基本的な意味があるのであつて色彩は単に附加的役割を果しているに過ぎず従つて類似性の判断に決定的なものということはできない。右のように解することが商標を使用する者の業務上の信用維持並びに需要者の利益を保護するという制度の目的に合致するものである。至して原、被告の右両標章は類似性があると言わねばならず、被告の右主張も失当である。
(三) 更に、被告は原告の商標権の効力は被告が自己の名称を普通に用いられる方法で表示する商標には及ばないと主張するが、成立に争ない甲第一号証の二によれば被告の名称(商号)は株式会社大アカフダ堂であり、単なる大アカフダ堂ではないことが明白である。ところで、被告の商標たる「赤札堂」又は「大アカフダ堂」が被告の名称を普通に用いられる方法で表示されたものか否かであるが、右「赤札堂」なる商標は前記の如く真正に成立した甲第四号証の一(包装紙)第五号証の一、二(定価票)に照しても被告が自己の名称を普通に用いられる方法で単純に表示したとは認め難く、又「大アカフダ堂」なる商標については、成立に争ない甲第三号証(ちらし)によればそこに表示されている「大アカフダ堂」なる文字は多分に図案化され特に一般の注意を惹くべく表示されていると認められ、これをもつて被告が自己の名称を普通に用いられる方法で表示したとは認め難く、右認定を左右するに足る証拠はない。従つて原告の商標権の効力が被告の使用する右の如き商標に及ばないということはできない。
四、以上の次第であるから、被告はその取扱商品につき「赤札堂」又は「大アカフダ堂」なる標章を使用して原告の商標権を侵害しているものと認められるので、その標章を商標として使用することの禁止を求める請求は理由があり、又その謝罪広告の掲載を求める部分はその広告の大きさ二段四分の一とし表題は二号活字、大アカフダ堂並びに赤札堂殿なる文字は四号活字その他はすべて五号活字を用いて別紙第二目録記載のとおり名古屋市内において発行する「中日新聞」(原告主張の「中部日本新聞」が社名変更により「中日新聞」となつたことが当裁判所に顕著なる事実であるから)岐阜市内で発行する「岐阜日々新聞」及び東京都内で発行する「繊維小売新聞」の全国版の各新聞紙上に各一回掲載することで十分慰藉の目的を達するものと認めるから右の限度で原告の請求は理由がある。
よつて原告の被告に対する本訴請求は右認定の限度において理由があるものと認めてこれを認容し、その他を棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、同第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。(村本晃 横山義夫)
(裁判官梅垣栄蔵は転任につき署名捺印することができない)